有間皇子の変

白雉4(653)年4月、中大兄皇子孝徳天皇の反対を無視して、母の皇極上皇や弟の
大海人皇子をはじめ、公卿・大夫・百官を引き連れて、飛鳥川のほとりの川辺の行宮
稲淵宮?)に移った。
孝徳天皇の皇后である間人皇女までが天皇を棄てて中大兄皇子に従った。
天皇はときに位を去ろうかと思うほどであったが、果たさぬうちに、翌654年には病床にふす
身となり、この年10月10日に恨みを抱いたままこの世を去った。

一人息子の有間皇子はこの時15歳で、皇位継承の有力な候補者であったが、孝徳天皇が
中大兄皇子らに擁立された事情や、皇太子に中大兄皇子が立ったことを考えれば、
孝徳天皇の次に有間皇子が即位することはほとんど望みが無い。
ところが意外にも中大兄皇子は皇太子の地位にとどまり、天皇の位には皇極上皇が再び
ついて斉明天皇となった。
中大兄皇子が皇位につかなければ有間皇子に即位の可能性がうまれてくる。

斉明3(657)年、有間皇子は18歳になった。
自分が天皇になれたら、という考えが胸の中に高まって来たとしても不思議ではない。
「中大兄皇子を押しのけて自分が皇位につくことができたら、憤死同様の死にかたをした
父の仇を討つこともできる。父を見捨てた継母間人皇后に思いしらすこともできよう」。
中大兄皇子に対する憎しみは、なおいっそう強く彼の心を噛んだであろう。
といって、当代第一の権力者に対して18歳の孤独の皇子に何ができようか。

有間皇子は思い屈して、次第に暗欝な青年になって行ったようである。
「書記」には、「有間皇子、性黠し。陽り狂れて云云」とあり、
続けて「牟婁温湯に往きて、病を療むる偽す」とある。
牟婁温湯とは紀伊国牟婁郡にある温泉、今の白浜温泉の鄰の湯崎温泉である。

どのくらい滞在したかわからないが、まもなく皇子はよくなって都へ帰って来た。
そして紀伊国の様子を褒めて、
「纔かに彼の地を観るに、病いおのずから蠲消りぬ」といったという。

斉明4(658)年、有間皇子は19歳になった。
中大兄皇子がかつて蘇我氏打倒をクーデター計画を練り始めた年だ。
その時、中大兄皇子は中臣鎌足に勧められて立ち上がる決心をしたのだ。
有間皇子にも謀反を勧める者が現れるかも知れぬ。
それならば、先に手をまわして有間皇子を唆し、謀反の計画だけを立てさせておいて
打ち倒せばよいではないか。
大化元年に古人大兄皇子を倒したあの方法だ。

この年10月15日、斉明天皇は牟婁温湯に出かけ、中大兄皇子らも従った。
すこし前に8歳で亡くなった孫の建王のことが忘れられず、心を痛めていたが、
その保養も兼ねての湯治である。

いよいよ事件は天皇以下が留守になった飛鳥の都でおこる。
11月3日、留守官として飛鳥の都に残っていた蘇我臣赤兄が、有間皇子を訪ねて来た。
赤兄の用件は皇子に謀反を勧めることであった。
「天皇の政治には三つの失策があります。
第一に、大いに倉庫を起てて民の財を集積すること。
第二に、長い溝を掘って公糧を浪費すること。
第三に、舟に石を載せて運び、積んで丘とすること。この三つです」。
皇子は大いに喜んで、「この年になってはじめて兵を挙げるべき時が来た」と言った。
孤独な若い皇子は、天皇と皇太子の失策を非難する赤兄を信用して心を許した。
赤兄は留守官に任ぜるほど中大兄皇子の側近の有力者であった。

一日おいて11月5日、皇子は自ら赤兄の家に行き、謀反の密議に入った。
密談の最中に夾膝(ひじ掛け)の足が折れた。
不吉の前兆と感ぜられたので会議を中止し、盟を立てて別れた。

皇子が宿に帰った夜半、赤兄は宮をつくるための人夫を集め、物部朴井連鮪
率いさせて、皇子を家を囲み、一方、急使を牟婁温湯にある天皇のもとに走らせた。
有間皇子は赤兄の謀略に見事に引っ掛かったのである。
捕らえられた有間皇子は牟婁温湯に護送された。
「万葉集」に見える有間皇子の歌は、途中11月8日、磐代で一夜をあかした時の作である。
「磐代の浜松が枝を引きむすび真幸くあらばまた還り見む」。
「家にあらば笥に盛る飯を草まくら旅にしあれば椎の葉に盛る」。

有間皇子は皇太子の温情を期待していたかも知れないが、太子の容赦ない訊問は
その希望を微塵に砕いた。
中大兄皇子が「何ゆえに謀反を企てたか」と問うのに対し、有間皇子は「天と赤兄と知る。
吾は全ら解らず」と答えたと「書記」にある。

有間皇子は11月11日に藤白坂(和歌山県名草郡)で絞首された。
中大兄皇子の鮮やかな手なみであった。
牟婁温湯   

和歌山県海南市・藤白神社の境内には有間皇子をまつる神社があり、
藤白坂には皇子のお墓がある。
有間皇子の墓 



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愛犬・りく君

Author:愛犬・りく君
茨城県日立市十王町で
漢方整体院を経営してます。

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